図書館総合展特別フォーラム「財政危機をチャンスに変える思考と戦略−低成長時代の図書館サービス指導理念」参加記

図書館総合展の第1日に行ってきて、特別フォーラム「財政危機をチャンスに変える思考と戦略−低成長時代の図書館サービス指導理念」に参加したことは先日書きましたが*1、ようやく参加記録をまとめることができました。ただし、私が当日メモしたことを文章化したので、発表されたことと微妙にニュアンスが違っているかもしれませんが、その点はご了承いただければと思います。

特別フォーラム「財政危機をチャンスに変える思考と戦略−低成長時代の図書館サービス指導理念」

日時: 11月10日(火) 13:00〜17:00

講師: 上山真一(慶応義塾大学総合政策学部教授、経営コンサルタント
    根本 彰(東京大学大学院教育学研究科教授)
    岡本 真(ACADEMIC RESOURCE GUIDE編集長)
    山田真美(作家、日印芸術研究所言語センター長)
コーディネーター: 高山正也(独立行政法人国立公文書館館長)

まずは、財政危機、インターネットの発展等による図書館をめぐる状況が厳しい中、これからの図書館サービスはどうあるべきかについて、4人の講師の視点による論点の整理と具体的方法案の提示がありました。

【講演1】 これからの自治体経営と図書館−ZOOMINGアプローチによる考察(上山真一)
・図書館の運営には関わったことはないが、図書館のヘビーユーザーではある。図書館の周りではどうなっているか述べたい。
・経常経費と税収入の差が大きくなっている。人口の高齢化による社会福祉費の経費がかかるようになったこと、人件費は急に減らせないことが、経常収支が増えている理由。このような成熟社会、財政危機という状況の中では、事業を絞り込んでいかなくてはいけない。
・日本は、「国政への不信→自治体への期待→改革派首長の誕生→国政の変化」というサイクルが続いている。今回の民主党政権の誕生も当然の流れ。8年周期の改革が繰り返されているので、民主党政権はこれから8年続くのでは?
・世の中で一番経営が難しいのは文化施設(特に、公共の美術館)。図書館は人々に認知されており、明らかに攻撃されることのないので、美術館に比べて恵まれているのではないか。
・「エアプレインモデル」(階層構造のサービス展開)を応用し、今後は、図書館サービスの内容の差別化を考えていく必要もあるのではないか。現在の図書館は、「エコノミー」のサービス(全員に均質なサービス)を展開している。
   *「エアプレインモデル」=サービス対象をファースト/ビジネス/エコノミーの3段階に分け、サービスを展開する。

【講演2】 図書館は誰の(ための)ものか(根本 彰)
・図書館の外側からの視点で述べたい。
・図書館関係者の自己言及は、「行政」「政治家」の理解がないからというボヤキが多いが、それで良いのか。
・社会教施設の中で利用者数が増えているのは図書館だが、無料の施設であること、貸出点数でカウントしているからである。貸出の背後にあるサービスの重要性にも目を向けるべき。
・今後の図書館運営には、民間経営的な視点も必要である。
・図書館はコミュニティの住民全体のもので、潜在的利用者(=現在図書館を利用していない住民)、将来の利用者も含めてサービスを行うことが必要。
・図書館は、サービスにコストがかかっていることを意識すること。サービスの有料制も検討すべきではないか。そうすれば、サービスの提供についての意識も変わる。

【講演3】 オープン思考による図書館サービス改革−金太郎飴を超えて(岡本 真)

Webサービスに学び、オープンな姿勢への転換、コラボレーションの展開など、オープン志向(人に知らせる、人に知らしめること)が必要。特にTwitterは波及効果が大きい。
公共図書館は、全国一律/横並び意識が強いように思える。特に、貸出、課題解決、レファレンスといったサービスの面で表出している。他館がやっているからではなく、地域によって必要とされるサービスを選んで展開していくことが必要ではないか。
・これからの図書館サービスは内部資源だけでは対応できない状況なので、オープンな姿勢への転換、コラボレーションの展開など、オープン志向が必要。また、館種を超えた図書館同士のネットワーク、職員間のネットワーク(正規−非正規、司書−一般職の壁を取り払う)、市民とのネットワークも必要。
図書館界では「レファレンスは最後の砦」的に捉えているようだが、レファレンスの仕組みを考え直す必要があるのでは?例えば、参加型レファレンス。都立図書館が、「Give Up事例」として、解決できなかった事例をホームページで公開して、情報を求めている。これに共感して、都立図書館協議会委員を引き受けた。*2
・数だけ見れば、「Yahoo! 智恵袋」は、レファレンスよりも数が多い。あらゆる手段を使って要求を満たそうとする意識の現われだと思う。
・最後は、一歩をどう踏み出すか。図書館が体力のあるうちに、勇気を持って踏み出してください。
 
【講演4】 「オタク」時代の図書館経営(山田真美)
・「オタク図書館」=ひとつのテーマに特化した図書館。
・「オタク図書館」必要な理由
 (1)一人ひとりの生活の価値の増加→「おひとりさま」
 (2)趣味の細分化・個別化→「オタク化」
 (3)自宅や職場にいながらにして多くの情報が簡単に得られる時代
    →インターネットでは拾えない、コアな情報が載っている本に特化した図書館=「オタク図書館」が必要になってくる。
・大規模で、広く浅く何でも揃う図書館だけが図書館ではない。「オタク図書館」が必要であるが、あくまでも、一般的な図書館が普及しているということが前提。
・誰もがアクセスできる情報は、インターネットが優位。だからといって、本がなくなるわけではない。

途中で、オススメのオタク図書館として、東京の専門図書館が何館か紹介されました。私はどこも行ったことがなかったのですが、いずれも「専門図書館ガイド」に掲載されているので、利用者さんに紹介したことは数知れず・・・。
  「専門図書館ガイド」  http://metro.tokyo.opac.jp/tml/trui/

【パネルディスカッション】 新しい政権下での図書館経営(コーディネーター: 高山正也)
その後、パネルディスカッションが行なわれ、パネラー(講師)の意見についてさらに掘り下げられ、熱いやりとりがありました。新しい政権下、というよりも、今後の図書館サービスはどうあるべきかという発言がほとんど。地域資料サービスの充実と図書館外(他機関、住民)との連携が重要という意見が中心でした。 
以下、パネルディスカッションで個人的にひっかかった発言をピックアップしてみました。

・今後の図書館の戦略論について、3つあげたい。(上山)
 1 すぐやること:顧客主義=スマイルと対話。
    図書館の利用者は、強く働きかけないと、サービスを受けた気にならない。
 2 想像してできる範囲のこと:土地と建物とネットワーク
     館=土地と建物、ネットワークを最大限に活用する。
 3 想像していないけれどもやるべきこと:未来の図書館の方向性
  (1)コレクションのあり方を変える(ユニークな形での編集)
  (2)レファレンス(人的サービス)の充実
  (3)対話とスマイルを作り出す場所、人と人との交流
  (4)図書館のドンキホーテ化(何でもあり、の図書館)=先祖がえり?
・行政との連携、地域の各種機関との連携により、行政の中での図書館の位置づけを明確化させる。(根本)
・地域資料について、そこにしかないオリジナルをどこまで展開させるか。また、危機をどうとらえるか。例えば、現在大阪府立国際児童文学館の廃止のお知らせが出ているが、もしそのようなことが自館に起こったらどうするのかを考えてみる。そして、「今、何ができるか」の積み重ねによって、ちょっとした改善を実行する。(岡本)
公共図書館は、どこにいっても同じような蔵書構成に見える。その郷土に関するあらゆる資料が、その地域の図書館に行けばあるという保障は重要。(山田)
OPAC検索では、内容まではわからないことが多い。主題からのアプローチに関連して、アジ研ではキーワードを抽出して、約300字の内容として登録した。(高山)
・図書館に匹敵するほど、認知度の高い(=「図書館」がどういう設備か知っている)、過去の利用経験を持つ(=誰でも一度は図書館を使ったことがある)文化施設はない。図書館の強みは「場」だと思う。便利な場所に、立派な建物がある。例えば、自分のような、駆け出し起業家群を図書館に取り込むようにしてはどうか。これこそ、ビジネス支援だと思う。
・図書館には件名の付与、パスファインダーの作成という、知の領域での付加価値的サービスもある。(根本)
・エアプレンモデルという階層構造の、エコノミーの部分が現在のサービス。ビジネス、ファーストは外とのつながりが必要になるサービスだが、図書館の職員だけではやらず、他部門、民間の協力すること。(上山)
・ボーンデジタルの収集について。Web上にしかないしかない自治体情報が増えているので、今すぐ取り組む必要がある。(根本)
・(「ラーニングコモンズ」に関して)ネーミングも重要。ネーミングを含めたマーケティングにより、外に対して図書をどうアピールしていくかということ。インターネットを自由に使える場を作る。ネットと本を一緒に使えるのは当たり前。学校との連携について、物流も含めて検討していく必要がある。(根本)
・図書館は、無料であるということに支えられている現実がある。将来的には図書館の有料化もありえると思うが、一方で本の価格の低下等の要因がからみあって、図書館が突然死する可能性がある。(上山)
・個々の利用者のニーズにあった資料を提供できる職員のいる図書館が、これからは求められる。(根本)
・中核となる世代おらず、業界が空洞化している出版業界は、たぶんだめ。(岡本)*3
・図書館は、20代、30代の若手職員を育てて欲しい。(岡本)*4
・元気な著者、元気な出版者があっての元気な図書館。一般の人、図書館、出版業界が一体化した取り組みが必要ではないか。図書館が他と組んで、WinWinの関係を築いていくことが大切。(山田)

図書館のおかれた状況によって今後進めるべき図書館サービスは異なるので、結論は今日出た意見を参考にして「各図書館、各個人で見つけていただきたい。」と、大きな宿題を出されて終了しました。時間がおしたため、会場からの質問は1名からのみでした。おそらく、質問したかった人、多かったのではないかと思います。
それで、私としての回答ですが、今すぐできそうなこととして「オープン志向の図書館司書」、特に、勤務館の外の図書館の方とのつながりを持つようにしていきたいな、と思っています。(大きなテーマのフォーラムだったのですが、小さくまとまってしましました…。)

*1:http://d.hatena.ne.jp/L-Komachi/20091110/1257856057

*2:「Give Up事例」に関わったことのある人間として、こういう場で紹介されるととうれしいです。「Give Up事例」は、都立図書館として調べつくした事例なので、通常の事例の公開よりも数倍大変でした。

*3:図書館もそんな状況かも…。なので、図書館もだめ???

*4:20代の司書職員、勤務館にはいません・・・。今年、採用試験があったので、来年は20代の司書職員がいるかも? ちなみに、30代の司書職員はいますが、30代前半は絶滅危惧種の状況です。