『上方のをんな』

上方のをんな: 女方の歌舞伎譚

上方のをんな: 女方の歌舞伎譚


片岡秀太郎著『上方のをんな−女形の歌舞伎譚(しばいばなし)』(アールズ出版、2011)を読みました。
この本は、著者・片岡秀太郎が語る歌舞伎についての話をまとめたものです。本人によると、「思わず、こんなことまで話してしまった……」ということもあるそうです。
父・十三代目片岡仁左衛門の思い出、役作りの工夫、上方歌舞伎のこと、松嶋屋の型のこと、成駒屋の型の違いなど、とても興味深い内容でした。読みながら、今まで気になっていたことが、いくつか解決しました。

 五つで初舞台を踏んでから、七十歳になった今日まで歌舞伎役者として歩んできましたけれど、私はやっぱり女方。いつまでも若々しくありたいですし、守ってあげたいとか、抱きしめたいと思っていただけるような、色気と古風さのある可愛い「をんな」を演じたい。できれば死ぬまでをんなであり続けたいです。
 けれども、自分の容貌が衰えてきて「これは、もう無理だ」と思った時には、潔くをんなを引退します。お客様に「あの梅川を演っているお婆さん」と言われてしまったら終わりですからね。そうなる前に老け役や立役をさせていただければと思っています。老女の役では、『堀川』(『堀川近頃河原達引』)での与次郎の母親と、『引窓』(『双蝶々曲輪日記』)での南与兵衛の義母・お幸を、ちょっと演じてみたい。
 をんなは引退しましても、生涯現役でありたいですし、いつまでも必要とされる役者でいたいと思っているんです。(p.20〜21)

とあるように、女方の役だけではなく、父の演じた「新口村」の孫右衛門や「沼津」の平作を自分が演じることで、義太夫やひとつひとつの台詞、ハートを大事にした十三代目片岡仁左衛門の孫右衛門や平作を、次代に残したい(見せたい)という思いもあるようです。


そして、上方歌舞伎をもっと知ってもらいたい、上方歌舞伎を演じる役者を育てたい、という思いも強いようです。

 私が、卒業生をはじめ、後輩たちに一番伝えたいのは、心です。もちろん形も大事ですけれど、何より大事なのはハートです。私が教えた通り、同じ形や動きをしていても、心が入っていないと観ている方の胸を打ちません。心が動いていれば、いじらしさや嬉しさ、哀しさといった何かをお客様に訴えることができるんです。
 若手を育てるにはチャンスの場を与えないといけません。また何かできないものかと常々考えています。卒業生たちの存在は、すごく励みになっていますね。私が今、生きている意味は、芝居をするためだけじゃなく、後進の育成にあるような気がします。(p.185)


「上方には型がない」のではなく、上方には型がありすぎる。だからこそ、上方の芝居を継承していく後輩たちには、数多くある型を熟知した上で選択し、自分なりの型を作っていって欲しい。−−そんな、著者の熱い思いが、この本を作ることになったきっかけでもあり、読んでいて、著者の歌舞伎に対する熱い思いが伝わっていきました。


『上方のをんな』は、松嶋屋ファンだけではなく、歌舞伎に関心のある方にもおすすめしたい本です。