『おだまり、ローズ−子爵夫人付きメイドの回想−』

おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想

おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想


昨年末に、『おだまり、ローズ−子爵夫人付きメイドの回想−』を読みました。面白くて、一気に読んでしまいました。
この本のカバーに使われている肖像画が、著者が35年間仕えた女性、レディ・アスター肖像画をよく見ると、とても意志の強そうな表情をしていますが、実際に気が強く、強烈な個性の持ち主だったようです。アメリカ南部出身で、離婚歴のある子爵夫人ナンシー・アスターは、典型的なイギリスの上流階級の淑女、といった私たちのイメージからはかなりかけ離れていて、とてもパワフルな女性。
「奥様からはしょっぱなから打ちのめされました。」と著者が述べているとおり、かなり苦労をしたようです。

ひとつの仕事にとりかかったとたんに、別の仕事を言いつけられるのです。奥様はかなり気まぐれで、こちらをねぎらうお気持ちなどいっさいなし。サディステックで辛辣で、何かについて念を押したりしようものなら、「せっかくだけど同じことを二度と言ってもらわなくて結構よ、ローズ」とぴしりと言われます。よくわたしの口まねをなさったのもふざけてではなく、わたしを傷つけようとしてのこと。最初に用意するようおっしゃったのとは別の服を着ると言い出すのも毎度のことで、指示されたとおりにしなかったとわたしを責め、反論するとこちらを嘘つき呼ばわりなさるのです。下品な言葉こそ使いませんでしたが、大声で怒鳴ったり荒れ狂ったりするご様子は、まるで市場の魚売り女でした。(p.116)


そんなレディ・アスターに振り回されながらも、対処の仕方を学んでいきます。そして、時にはレディ・アスターとやりあい、そのたびに「おだまり、ローズ。」と言われながらも、著者が35年もレディ・アスター付きメイドとして仕えることになったのは、レディ・アスターが魅力的な女性でもあったのではないかと思いました。レディ・アスターも、著者がなくてはならない存在ではなかったかと思います。女主人とメイドという関係をこえて、二人は深く結びついたように思います。


著者は「旅行がしたい。」という希望を叶えるために、お屋敷勤めの召使いのうち、「お付きメイド」になることを目指しました。「お付きメイド」になるために、母親のアドバイスに従ってフランス語と婦人服の仕立て方を習います。そして、「令嬢づきメイド」からキャリアをスタートさせました。タフトン家、クランボーン家、アスター家でメイドとして働きます。メイドでも、「令嬢づきメイド」と「奥様づきメイド」では、使用人としての格が違うことをこの本で知りました。
著者の「旅行をしたい。」という希望は、レディ・アスター付きのメイドになったことで、夢見たよりもはるかに豪勢な形で叶えられることになりました。イギリス国内だけではなく、ヨーロッパ大陸、アメリカ、キューバ、アフリカなどへの奥様のお供をしての旅行は、恐らく、レディ・アスター付きメイドだったからできたことであり、著者でなかったら、音を上げていたかもしれません。


全編が「事実は小説よりも奇なり」、その連続でした。