「公共図書館はほんとうに本の敵?」@紀伊國屋サザンシアター

2月2日(月)に、新宿・紀伊國屋サザンシアターで行われた日本文芸家協会主催シンポジウム「公共図書館はほんとうに図書館の敵?−全国公共図書館・書店・作家・出版社が共生する『活字文化』の未来を考える−」に参加しました。

日本文芸家協会ホームページからのメールでの申込等は、比較的早く定員に達したとして受付を締切っていましたが、当日は特に受付はなく、参加費を支払えば、事前申込をしなくても参加できたようです。

会場はほぼ満席でした。参加者は、出版・書店関係、図書館関係が多かったように思います。
参加する前は、パネリストの顔ぶれ、予習で読んだ『新潮45』(2015年2月号)の特集記事から、公共図書館批判のシンポジウムになるのではないかと恐れていたのですが…。
ところどころ、図書館に向けた批判的な発言はあったものの、比較的穏やかな(少々、物足りない?)シンポジウムでした。

  • パネリスト
  • 司会


開会のあいさつ (日本文芸家協会会長 関川夏央さん)

  • 日本の出版産業は、ここ10年間で約1兆円、売上が減っている。電子書籍も伸び悩みの状況。 出版業界は危機の領域にある。
  • 一方、公共図書館も、資料費の減、専門職員の減で危機的状況にあるのではないか。
  • ネット化した社会では、「情報はタダ」という認識がある。また、若者の貧困化で、本を買わなくなった。
  • 図書館、版元(出版社)、書き手は、今後、どういう形で共存できるのか。また、デジタル化の中で図書館はどうあるべきかについて、今日は考えていきたい。


植村先生

  • 最初に事実確認として、出版と図書館の状況について見ていく。
  • 出版市場の推移を見ると、雑誌の売上が減少している。雑誌の販売部数が大幅に減り、雑誌の広告収入が 減少している。書籍の売上は微減だが、単価が下がっている。
  • 図書館数は増加し、貸出冊数も増えている。
  • 書籍販売数と図書館の貸出数の合計は増加となる。
  • 学生は本を読まなくなっている。背景として、デジタル学習の増加もある。
  • 書店は、マンガと雑誌の販売でもっているが、マンガと雑誌が売れないため、書籍が危機になる。(文化の二重構造)
  • 言論表現の自由は、書籍の購入によって支えられている。


以下は、パネリストの発言の主なもの(=私がメモしたもの)をパネリストごとにまとめてみます。私が聞き取った範囲のものであることご了承ください。


石井さん

  • 以前に比べて、公共図書館での複本は減っているが、ベストセラーの複本は、今でも問題である。
  • 現在、40%くらいの本が返本されている。
  • 出版社の経営は、増刷−ベストセラーよりもそこそこ増刷する本−で成り立っている。しかし、ベストリーダーの上位の本が図書館で貸出されている。増刷できるはずの本が増刷できないのは、図書館が原因ではないか。
  • ここ10年、本や雑誌はタダで読むという認識が広まった。図書館の利用者への利便性は行き過ぎていないか。図書館はベストリーダー(文芸、エンターテーメント系の本)の貸出を6か月猶予するなどして、出版社に協力して欲しい。
  • 予約の多い図書の寄贈を呼びかけるという、悪い図書館がある。


菊池さん

  • 図書館は、複本問題については対応してもらっているのではないかと思う。
  • 貸出猶予期間は、本によってはあるが、図書館側はどう受け止めているだろうか。
  • 専門書の初刷は、3000部から2000部くらいに減ったが、その半分くらいは図書館が購入しており、本を手元に置きたい人は買ってくれる。
  • 中小出版社の本は、新古書店には置いてもらえない。
  • 図書館とどうつきあっていくのか。本にお金を出す人が減っているが、ネットだけで良いのか。


林さん

  • 自分は本屋の娘なので、出版業界に恩がある。昔、豊島区の図書館を利用したし、現在も娘を連れて近くの図書館を利用している。
  • 新書と文庫本が図書館に置かれることには、違和感がある。
  • 新潮社から出した本がまだ重刷されているので、(石井氏の話を聞いて)非常に心苦しい。執筆にあたり、海外に2回取材旅行に行った。
  • 武雄市図書館について。行く前は良い思いを抱いていなかったが、行ったらいい雰囲気だった。国語の出張授業で武雄市に行ったが、本好きの子供が多くて驚いた。
  • 首長が変わることで図書館が変わるという問題もあるのではないか。


根本先生

  • 20歳から図書館にはまり40年たってしまった(今年、還暦)。
  • 公共図書館の貸出路線には反対してきた。
  • 図書館の数が多いため、貸出点数が多くなっている。 一時期に比べて予算が減っていること、作家からの批判で、図書館の複本は減っている。
  • 公共図書館の2つの課題
    • 民営化が進む中での行政評価。
      • 図書館の役割は何で、どう評価をするか。
      • 図書館は、来館者数、貸出数で評価されるが、図書館の役割は多様であり、図書館全体を評価する視点が必要。
    • 司書の資格の評価
      • 司書の資格は、日本では簡単にとれる。
      • 本の専門家としての司書をどう育成していくか。
  • 公共図書館大学図書館では、コレクションの作り方に違いがあるのではないか。公共図書館には、自治体としての考え方が選書の基準となる。市民の考え方(予約、リクエスト)を積極的に取り入れるという考え方もある。
  • 外国の図書館の事例の紹介(図書館の利用登録が有料、新刊書の予約が有料の国、公貸権の設定)


佐藤さん

  • 公共図書館は本の味方。公共図書館大学図書館にはとても世話になった。図書館がなかったら、今の自分はいない。
  • 国会図書館には行けないが、国会図書館のデジタルライブラリーは毎日利用している。
  • 同志社大学神学部の図書館で、図書館の使い方を学んだ。いつか誰か読む人がいるかもしれないということで本を収集している。
  • 公共図書館で、新しい本を入れるため、古い良書(基本となる本)が廃棄されるのは、非常に問題である。
  • 利用者の要望が100%反映した蔵書構成になっているのが、東京拘置所内の文庫。半分が犯罪小説。


猪谷さん

  • 昨年出した『つながる図書館』で、ここ10年、貸出中心の図書館から、違う機能を持つようになってきていることを書いた。仕事でも図書館を利用している。東日本大震災の後、自分にとっての図書館とは何かを考えるようになった。


林さんは実際に武雄市図書館を訪れて、樋渡市長(当時)のお話も伺ったとそうですが、武雄市図書館の印象は良かったものの、市長の印象は良くなかったようなことを発言されていました。
佐藤さんのお話を聞いたのは初めてでしたが、結構、面白いし、鋭いところを突いてくると思いました。佐藤さんが求めているのは調査に役立つ図書館であり、それは県立図書館が担うべきものだろうと思いました。
なお、猪谷さんの部分が他の方に比べて極端に少ないのは、途中で紹介された図書館の事例が、何度が聞いたことのあるものだったために、特にメモをしなかったことによるものです。


閉会のあいさつは、日本文芸家協会副会長・三田誠広氏からで、「読者は文学のサポーター。図書館で読んで良かったと思った本は自分で買って手元において欲しい。図書館は、需要があまりない、高い本をおいて欲しい。図書館、出版社、作家が共存できるようになっていけば良いと思う。」というようなことを言っていました。

 
主催が日本文芸家協会だったこともあって、今回のシンポジウムは、出版社と作家が、公共図書館への要望(注文?)を出す場だったように感じました。石井さんの「公共図書館の複本問題」に対する発言は、以前と同じ調子でした。それに、今回は、リクエストが多いベストセラー本を公共図書館が寄贈を呼びかけていることに対する批判が加わりました。
図書館側のパネリストとして、根本先生と猪谷さんが出ていましたが、果たして、どこまで公共図書館の代弁者となりえたのか。私も含めて、図書館の中の人は、「まだ複本問題?」と思ったのではないでしょうか。1つの自治体で複数冊所蔵している場合でも、館に1、2冊という場合がほとんどだと思います。それらの本に、数百件の予約がついていることもあります。予算が限られている中で、リクエストがあっても、そんなにも同じ本を用意することは難しいのが実情ではないでしょうか。。
なお、出版社でも、新潮社の石井氏と、筑摩書房の菊池氏では、出版する本の違いによるものかもしれませんが、何となく、公共図書館に対する考えが違うように感じました。

そして、植村先生のが「公共図書館の利用者は住民の2割で、住民の8割は図書館を利用していない。市民の声の圧力(ベストセラーを借りたがる市民)に公共図書館はどう対応していくのか。」という問いかけでいましたが、これについては、公共図書館として、何らかの回答を示す必要があるのではないかと思いました。ただし、正答は1つではなく、それぞれの図書館なりの回答を示す必要があると思います。

最後に、パネリストが自分にとっての「理想の図書館」をあげていったのですが、菊池さんが「伊万里市民図書館」、佐藤さんが「(沖縄県久米島町学校図書館」を上げたのが印象に残りました。

開会のあいさつの中で、関川さんが「デジタル化の中で図書館はどうあるべきか考えていきたい」という発言があり、司会が植村先生だったのですが、電子書籍の話はほとんど出ず、紙の本が中心でした。(電子書籍が、出版社が思っている以上に、伸び悩んでいるためでしょうか?)


いろいろ考えることがあり、消化不良なところもあった今回のシンポジウム。とりあえず、「活字文化」の未来のためには、公共図書館、書店、作家、出版社が協力し、共生しなければならない、解決しなければいけない課題はいろいろあるけれど、ということを確認する場だったように思います。