フォーラム「公共図書館の役割を考える〜本に携わる私たちからの期待〜」@第17回図書館総合展

昨日のエントリーに引き続き、11月10日(火)に行われたフォーラムの参加記録と感想です。
なお、記録は、あくまでも私が当日メモしたものがもとになっています。聞き取れなかったり、メモしきれなかったこともありますので、ご了承ください。こちらも動画が見られるようです。

フォーラム「公共図書館の役割を考える〜本に携わる私たちからの期待〜」
講師:金原瑞人(法政大学社会学部教授/翻訳家)
   佐藤隆信(新潮社 代表取締役
コーディネーター:成瀬雅人(原書房 代表取締役


成瀬雅人原書房 代表取締役

  • 図書館総合展に出版社の出展が増えている。最近は、東京国際ブックフェア全国図書館大会などで、出版社と図書館が一緒にセミナーをやったり、出展したりすることが増えている。
  • 今日のフォーラムは、出版社と図書館との対立の図式を作るのではなく、一緒に考える場としたい。最初に、佐藤さん、金原先生に発表していただいた後、会場からの質問を受けながら、ディスカッションしていきたい。


佐藤隆(新潮社 代表取締役

  • 文芸書の著者や書店から、「図書館の貸出のせいで、本が売れないのではないか?」という声が上がっている。2010年に、公立図書館の貸出数が書籍の売上数よりも多くなった。書籍の売上数が減っている原因の1つに、図書館の貸出数の増加があるように思う。
  • 文芸書は、売れている本の売上で売れない本をカバーしている。売れる本を図書館の貸出で回していると、文芸書の売上に響いてしまう。
  • 例えば、『村上海賊の娘』について、3,113館の平均所蔵冊数は2.17冊。
  • 東京は(図書館の)分館が非常に多い。自治体内で搬送便が運行され、複本がより多く利用されるようになっている。また、スマホの普及で、手軽に本の予約ができるようになった。
  • 「読書をすること」と「図書館で提供されるサービスを利用すること」は、目的に沿って考えれば、異なること。公共図書館の役割として「読書」の支援をあげてしまうと、「読書」によって成り立っている書店や出版など、民業とのすみ分けが難しくなる。


金原瑞人(法政大学社会学部教授/翻訳家)

  • 初版の印税は、20年前は売上の8%だったのが、現在は6%になった。原稿用紙で700枚くらい書いて、手取は25万円。翻訳1本では、食べていけなくなっており、翻訳家は生きづらい時代になっている。
  • 本の売上が減っているというのは、図書館ではなく、出版社の問題と考える。
  • 図書館が複本を減らして、その分、他の本を買ったとしても、図書館で本が借りられない時に、本を買うようになるのか。そうならないと思う。自分は、好きな本や読みたい本は買うので、図書館にはほとんど行かない。作家さんも図書館の恩恵を受けている。図書館を利用していて本の面白さに目覚め、本を買うようになったという若い作家さんもいる。
  • 図書館の利用者を増やして欲しい。そうすれば、その内のいくらかは本を買うようになる。また、図書館には読書文化を支えて欲しい。図書館にお願いしたいことがある。
    1. 賞を受けたりした定評のある本を揃えて欲しい。また、詩歌の本が欧米に比べて少ないので、特に新しい詩人・歌人に目を配って欲しい。
    2. 資料費を上げて欲しい。教育や文化を支える基盤が日本にはないので、図書館と出版社が協同で、図書館の資料費を上げる運動を盛り上げて欲しい。


[ディスカッション]

  • (佐藤)先ほど上げた数字は意見を言うための根拠で、参考資料程度。だが、文芸書が苦しいのは事実。図書館には、読者の母数を増やして欲しい。そうすれば、将来の本作りにつながる。
  • (金原)出版社が苦しいとのことだが、翻訳家も苦しい。図書館の資料購入費が、書籍全体の売上数の中で占める割合を増やすようにする。図書館行政がしっかりしていれば、読者も増えるのではないか。


公共図書館の蔵書構成について

  • 相模原市図書館協議会の方)公立図書館には理系の本が少ない。図書館は文科系なので、理系の本の選書ができないのではないか。理系の本について、公共図書館でもしっかり考えて欲しい。
  • (佐藤)自分は東京理科大出身。理系の学生は、専門書は読まない。ジャンルによって出版も異なるので、全ジャンルについてどう選書していくかを議論して欲しいと思う。
  • 相模原市図書館協議会の方)海老名市の図書館も見学したが、本を開架に全部出すのが良い。理系の人芸が大事だと思う本が、書庫の奥に入っているのは悲しい。


図書館の本の並べ方について

  • (新星出版社・富永社長)初めての人でも手に取りやすい、実用書を出版している。実用書はNDC分類にはなじまない場合が多い。中心館では難しいかもしれないが、分館では、本をジャンル別に並べてみるなど、配架も工夫がもっとあって良いのではないか。


新刊書の貸出猶予について

  • (佐藤)新刊書の貸出猶予の話はある。著者と出版社が話合って、売上のある本については、図書館に貸出猶予をお願いしたい。気持ちの上では、合意できるのではないかと考えている。複本については節度問題なので、具体的な数字は出ない。各自治体で利用状況を見ながら判断をお願いしたい。出版社もジャンルによって、経営等が全く異なる。
  • (金原)出版社の申入れを受け入れるかどうかは、各図書館が判断すれば良いと考える。
  • (佐藤)「本は買うものか、借りるものか」という議論は前からあった。「本は借りるのではなく、買って読むものだ」というようになって欲しい。


図書館価格について

  • (TRCの方)DVDは、図書館用を通常よりも高い価格で買っているが、本についても、図書館用としして高く売るという考えはないのか。
  • みすず書房・持谷社長)何らかの形で実現するのであれば、実施したい。出版社が図書館をマーケットとしてみる機会になる。ソフトカバーかハードカバーかという本の使用も含めて考えたい。
  • (金原)海外では、ハードカバーは図書館用、ソフトカバーは一般用として売られている。
  • 吉川弘文館の方?)電子書籍は図書館価格で販売している。
  • (成瀬)前提として、図書館の予算が増えないとダメ。図書館が幅広く本を購入することによって、出版も支えていただく。
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今度は、出版社から図書館に対して、どのような注文が出てくるのか知りたくて、このフォーラムに参加しました。
新潮社・佐藤社長より、「新刊書の貸出猶予の話はある。著者と出版社が話合って、売上のある本については、図書館に貸出猶予をお願いしたい。気持ちの上では、合意できるのではないかと考えている。複本については節度問題なので、具体的な数字は出ない。各自治体で利用状況を見ながら判断をお願いしたい。」という発言に対して、法政大学・金原教授より、「出版社の申入れを受け入れるかどうかは、各図書館が判断すれば良いと考える。」という発言がありました。
ニュースメディアでは、「新潮社社長、1年間の新刊貸し出し猶予を要請へ」というような、刺激的なタイトルで報道されていましたが、実際に会場で聞いていた限りでは、既知のことが多くて、報道の取り上げ方に「?」と思いました。
個人的には、リクエストが多い本の貸出猶予をしたとしても、出版社が思っているほど、書店で新刊書を買う人が増える(=図書館でリクエストをして新刊書を読んでいた人が、新刊書を書店で買うようになる)とは思っていません。おそらく、会場にいた図書館関係の人も私と同じように思っていたのではないでしょうか。図書館関係者からの質問がなかったのでは、そのためではないかと思っています。
それぞれの言い分はあるにしても、「出版社と書店」対「公共図書館」という対立構図はやめて、共存していくことは無理なのでしょうか…。