『天才と名人−中村勘三郎と坂東三津五郎』


著者は、十八代目中村勘三郎を「名人」、十代目坂東三津五郎を「天才」と呼んでいますが、二人の舞台を見たことがあるならば、その呼び方に異議を唱える人はいないと思います。今さらながら、二人の共演を、新しい歌舞伎座で見たかったです。ファンや関係者だけでなく、本人たち自身が、一番無念に思っているように思います。


この本では、二人と交流のあった演劇評論家でもある著者が、二人の舞台や思い出話などを綴っています。十八代目中村勘三郎と十代目坂東三津五郎を交互に語ることで、余計に、二人の芸や個性が鮮やかに描かれていると思いました。同世代の二人はライバルであると同時に、それぞれの芸を自分にないものとして認め合った一番の理解者でもあったように思います。本書の中でも、以下のように綴られています。

「なんで三津五郎さんは、平成中村座へ出ないの」
「それは守田座の座元の家に生まれた意地ですよ」
声を荒げることはなかった。淡々と言って、それ以上は語らなかった。それほど取り付くしまがなかったといってもいい。考えもなしに無礼なことを口にしてしまった。勘三郎三津五郎。二人が盟友であることと、好敵手であることは矛盾しない。ふたりは本気で、競いあって生きてきたのだ。すべてを賭けて、競いあって生きてきたのだ。その葛藤は、彼らのこころのうちであって、だれにもわからない。(p.225〜226


私が歌舞伎を見始めたのは平成の初め頃ですが、歌舞伎座での八月納涼歌舞伎が始まっていましたので、二人の思い出の舞台はたくさんあります。二人が共演することで、相乗効果的に面白くなった舞台はたくさんありました。二人の襲名公演など、二人の生の舞台を見ることができて良かったと思っています。