秀山祭九月大歌舞伎を前に、「私の履歴書」(2018年7月分)を読み返してみました

9月に入りました。

9月の歌舞伎座は「秀山祭」で、初代中村吉右衛門の芸を顕彰し、志を継ぐものの研鑽の場として、初代の生誕百二十年にあたる平成18年に始まりました。9月に、当代中村吉右衛門を座頭に、初代吉右衛門にゆかりのある狂言が上演されます。

今月は、昼の部、夜の部ともチケット確保済みです。

そして、「秀山祭」観劇の前に、日本経済新聞2018年7月に連載された中村吉右衛門の「私の履歴書」(全30回)を改めて通して読んでみました。思い出のエピソードなどは、すでに、当代吉右衛門の本に書かれていたことも多かったので、初代吉右衛門の芸を継ぐ役者としての覚悟、これからの歌舞伎に対する思いを中心に、個人的に気になった箇所をピックアップしてみます。

 

初代への思い

私の履歴書」を読んでまず思ったのは、初代吉右衛門の芸を受け継ぐ者としての覚悟でした。初代吉右衛門については、私は本や雑誌等に書かれたことでしか知る手段はないのですが、一代で「中村吉右衛門」の名を大きくし、数々の当たり役があります。それらの役の多くは、当代吉右衛門も何度も演じています。

生まれた時から、播磨屋の跡継ぎになることが決められていたとのことですが、

一代で名優にのぼりつめた養父、初代吉右衛門の跡を継ぐ苦しさ。今だから言えますが、順風満帆な人生ではありませんでした。(第1回) 

 と、当代吉右衛門は述べています。おそらく、想像しきれない苦労や努力によって、当代吉右衛門の歌舞伎役者としての芸が成立しているのだと思います。「初代ははるかかなたの存在であり、まだまだ追いつけるとは思っていない。」と述べていますが、当代吉右衛門の舞台も素晴らしいと思っています。

歌舞伎俳優名鑑 想い出の名優編 中村吉右衛門(初代)

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「秀山祭」への思い

 養父の初代吉右衛門が練り上げて当てた数々の芝居。それを受け継ぐことを使命に、ずっとやって参りました。しかし、芝居は一度やったら消えてしまいます。私が消え去るのはいいとしても、初代がのこしたものがなくなってしまうのは無念です。二代として耐えられない。次の世代に継承してもらうことを考えなければいけません。

かつて初代を中心とした「吉右衛門劇団」というものがありました。私は30代の頃から何度か復活を願いましたが、なかなか難しいことでした。

そこで考えたのが、祥月である毎年9月に、初代を顕彰してゆかりの演目を披露する公演を立ち上げることでした。初代の芸と志をなんとかのこしたいと思ってのことです。私にそれだけの器量があるとは思いませんが、それは跡継ぎとしての務めであると思ったわけです。(第27回)

 

秀山祭で初代の役を手がけることで、実父(初代松本白鸚)の稽古を思い出し、実父が初代から受けた教えを改めて見つめ直す機会になったとも述べています。

秀山祭を通じて次の世代に初代の芸を残したい。播磨屋の芸風を受け継ぐ人が育ってくれれば、ありがたいと思っています。

そのために私は、自分自身が初代の当たり役を演じるのはもちろん、播磨屋の志向する芸域に、いまの若い人たちも向いてもらうよう、はなむけの馬子になれたらという気持ちでいます。(第27回) 

 

今月の歌舞伎座にも、若手の役者さんが多く出演します。当代吉右衛門と同じ舞台に立つ役者さんは特に、播磨屋の芸というものを身近に触れ、多くを学んで欲しいと思います。

そして、娘婿である尾上菊之助については、次のように述べています。

今まであまり共演がなかった尾上菊之助さんとは最近、一緒に出る機会が増えました。2013年にうちの四女と結婚したのがご縁です。孫も授かりました。昨年4月には「傾城反魂香(けいせいはんごうこう)」で夫婦役をしました。彼はとても研究熱心です。共演しながら私の芝居を見ているようで、少々緊張します。

先月、歌舞伎座の「夏祭」では孫(寺嶋和史)と初めて芝居で共演しました。じじばかですが、こんなにうれしい芝居はありませんでした。いつか「寺小屋」や「盛綱陣屋」を一緒にやりたいものです。(第29回) 

 

「傾城反魂香」、「夏祭」とも見ていますが、確かに、尾上菊之助が当代吉右衛門の芝居を舞台でよく見ているように思いました。また、「寺小屋」や「盛綱陣屋」での孫との共演は、近いうちにありそうな気がしています。

 

80歳の弁慶にも期待

 今の目標は、80歳で「勧進帳」の弁慶をやることです。数えの77歳となる喜寿で一度やり、また80歳でできたらと思っています。なぜ弁慶かというと、役者としてこんなにつらく、えらい役はありません。しかし弁慶ほど、演(や)り終えて達成感のある役もないのです。フルマラソンを完走してゴールに倒れこんでしまうように、花道を引っ込んだらそこで力尽きるような役です。それを80歳でできたらいいな、という希望です。(第30回)

 

勧進帳」の弁慶役の大変さは、映画「わが心の歌舞伎座」で再認識しました。

「わが心の歌舞伎座」では、「勧進帳」の弁慶を勤めた十二代市川團十郎が、花道を引っ込んでから、息をきらせながら楽屋に戻っていく様子の映像があり、「弁慶は、こんなにも大変な役なのか…。」と思いました。「勧進帳」は人気狂言なので、上演されることが多いのですが、勤める役者はとても大変。でも、それ以上に、弁慶は、やりがいのある役なのかもしれません。

当代吉右衛門の、80歳で勤める「勧進帳」の弁慶、ぜひ見たいです。一世一代と銘打って上演されることになるでしょうか?

 

今月の歌舞伎座で、吉右衛門の舞台を堪能してきます

私の履歴書」は、7月の間、毎朝楽しみに読んでいました。今回、改めて通して読んでみて、歌舞伎への思いと、播磨屋の芸の継承への思いが強いことがわかりました。

中村吉右衛門名跡を含めて、播磨屋の芸がどのように継承されていくのか全くわかりませんが、今月は当代吉右衛門の舞台「俊寛」と「河内山」を堪能してきたいと思っています。

 

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