第20回図書館総合展フォーラム「データで見る図書館~指定管理者制度導入館と非導入館」

第20回図書館総合展」の1日目、10月30日(火)の午後に行われたフォーラム「データで見る図書館~指定管理者制度導入館と非導入館」に参加しました。

2018年10月30日 (火)  13:00 - 14:30
発表者 : 水沼友宏(ゆひろ)先生(駿河台大学 助教
パネリスト : 是住久美子さん(田原市中央図書館副館長)
パネリスト : 三浦なつみさん(墨田区立立花図書館館長)
司会 : 吉井潤さん(図書館総合研究所主任研究員)

www.libraryfair.jp

だいぶ遅くなりましたが、個人的な記録と感想です。記録は、当日の個人メモをおこしたものなので、発表内容と異なっている部分があるかもしれません。ご了承ください。(私の認識違いの箇所については、ご指摘いただけると幸いです。)

 

1 研究背景、進め方

2003年6月の地方自治法の一部改正により、2004年以降、公立図書館に指定管理者制度が導入されてから今年で14年。指定管理者制度についてさまざまな議論はあるが、指定管理者制度を導入している図書館、導入していない図書館の差異を大規模かつ網羅的に調査したものは少ない。そこで本フォーラムでは水沼氏から指定管理者制度を導入している図書館、導入していない図書館について
(1)利用に関する共時的調査
(2)レファレンスサービスの状況
(3)NDC、Cコードによる蔵書構成の調査結果
について報告し、調査結果について実践者として図書館の現場から是住氏、三浦氏それぞれから意見等をコメントする。 

 

なお、今回の報告の元となった水沼先生の博士論文は、筑波大学リポジトリで公開予定だそうです。水沼先生の個人ページの業績欄を見ると、研究の一部が雑誌に掲載されているようなので、関心のある方は、こちらの論文をご覧になるのが良いのではないかと思います。

  • 水沼友宏,辻慶太. 公立図書館における指定管理者制度導入館と直営館の所蔵図書と貸出状況. Library and Information Science,2018, no.79,p.1-p.26.
  • 水沼友宏. 公立図書館における指定管理者制度導入館と直営館の現況比較: レファレンスサービスを中心として. 日本図書館情報学会誌,2016,vol.62,no.4,p.221-p.241.

 

2 フォーラムの目的

今回のフォーラムの目的は以下の2点とのことでした。

  1. 図書館に関するデータを分析することによって、図書館の特性を明らかにできることを知ってもらいたい。
  2. 公立図書館への指定管理者制度導入について、「全体」の傾向を知ってもらうことにより、より良い図書館のあり方について建設的な議論が行われることを期待したい。

 

最初に、ライブラリー・アカデミー塾長の高山正也先生から

「「指定管理は図書館にはなじまない」と指定管理者制度を批判する方も少なくないが、根拠(=データ)を示さず、主観的に批判されている方が多いように思われる。また、指定管理者制度について、世代間の考えの違いもあるようだ。今回のフォーラムでは、これから先、長く図書館に関われる若い方の知見も取り入れながら見ていきたい。」

と、今回のフォーラムの目的についての説明がありました。

 

3 調査結果

3-1 利用量調査に関する調査

  • 『日本の図書館』(日本図書館協会)の7項目(来館者数、貸出冊数、予約冊数、相互借受・貸出冊数、複写枚数、レファレンス件数)について、平均値と中央値(大きさの順に並べた時に中央にくる値)の比較を行った。
  • なお、比較については、以下の点に留意して欲しい。
  1.  量的分析に留まること
  2. 対象サービスが限定されていること(マイノリティーサービスは対象外)
  3. コストを考慮していないこと
  4. 因果関係の証明ができていないこと
  5. 現状の提示に留まること(傾向は今後変わる可能性がある)

 

3-2 レファレンスサービスに関する調査
 
この発表に対して、パネリストからは、下記のような意見が出ていました。
  • レファレンス件数の取り方が、館によって違うのでは?
  • 指定管理者制度はある程度の規模がないと採算が取れないので導入できない。小さい規模の図書館には指定管理は入らないが、そもそもレファレンスサービスができていない状況にあるにでは?
  • (是住さん)自館で回答できなかった質問の照会について、田原市では職員が他館に問合せを行っているが、県立図書館や国会図書館は質問件数が多いので、質問者に照会するよう案内していた。

 

3-3 所蔵資料に関する調査

  • (1)2013年に出版された図書10,000冊(無作為に抽出)、(2)過去20年分のベストセラー について、カーリルでISBN検索を行って調査・分析した。
  • 指定管理導入館は各分野をまんべんなく所蔵している。非導入館は、日本の小説、エッセイの7所有率が高い。
  • 指定管理導入館は、参考図書を積極的に所蔵している傾向が見られた。
  • 指定管理非導入館は複本所蔵率が高い。過去のベストセラーで、ほとんどの者が貸出されているのは『火花』。ほとんど貸出されていないのは、ハリー・ポッターシリーズ、『ダーリンは外国人』『五体不満足』。
  • 所蔵している本の平均価格は1,400円強。1,800円くらいかと思っていたので、
  • 思っていたよりも安かった。

 

この発表に対して、パネリストからは、下記のような意見が出ていました。

  • 指定管理導入館がバランスよく所蔵しようとすると、相対的に、文学の割合は小さくなる。
  • 指定管理導入館の本が参考図書の所有率が高いとのことだが、新館でできて指定管理を導入した際に参考図書も揃えたのではないか。
  • 例えば、23区は中央館が直営で、分館が指定管理という自治体が多い。分館は書庫が狭いので、利用が少なくなったもの(過去のベストセラー)は中心館で所蔵しているのでは?
  • (三浦さん)墨田区は、所蔵館が固定されていない。本が返却された館で、そのまま所蔵している。
  • (是住さん)予約数に応じて複本を購入している。ベストセラーで予約が多いからと言って、昔ほど購入はしていない。

 

4 フォーラムに参加しての個人的な感想など 

指定管理導入館と非導入館について、数字で比較する、というのは面白い試みだと思います。ただし、水沼先生自身も最初に断っていたとおり、今回の分析は、既存のデータを指定管理導入館か非導入館かでのみ分けて分析したものなので、結果を聴いていてモヤモヤした点が多かったです。(他の参加者の方はどう思われたのでしょうか?) 

パネリストからも指摘がありましたが、まずは個々の図書館の規模の問題です。非導入館に分類される図書館の方が、都道府県立図書館や各自治体の中心館といった規模の大きい図書館から分館レベルの小さい図書館まで、規模のばらつきが大きいと思います。それを「指定管理非導入館」としてひとくくりにしてまとめていいのか? 

また、非導入館であっても、完全な直営というわけではなく、現在は、かなりの業務に委託が入っています。委託でなくても、業務を担当しているのが正規職員ではない様々な雇用形態の職員が担当しているのが現実です。このあたりをどう考えるのか? 

他にも、

など、図書館の現状が数字だけでは判断しにくい箇所もありそうです。 

どこまで公開するかは各図書館の判断になりますが、基本的に、どこの図書館も業務統計はとっているはずです。ただし、それが外にきちんと出て、データとしてアクセスできる状態になっていない図書館もあるようです。以前、ARGの岡本さんが、都道府県立図書館サミットだったか図書館総合展のフォーラムだったかで、「図書館の事業概要がホームページに掲載されていない」と嘆いていたことを思い出しました。

統計についても、現在の数字で、これからも図書館業務を判断して良いのか、という問題もあるように思います。

例えば、以下のようなものです。

  • 滞在型とうたっている図書館が入館者数だけで判断してよいのか(1人当たりの滞在時間という数字も必要?)
  • レファレンス件数について、即答できた質問も、時間をかけて調査した質問も1件で良いのか(1件当たりの調査時間という数字も必要?)

図書館の業務統計は、評価の指標にもなります。図書館側としては、まずは日常の業務統計をきちんととって集計し、公表していくことが必要ですし、図書館情報学の研究者には、統計を使った多面的な分析・考察と図書館の業務がより把握できる統計とり方の提示をお願いしたいのかな、などと思いました。